とある街のアクセサリ屋。
店内には小難しい顔をして真剣に品定めをする少女とその傍らに立つ赤い男。
傍から見ればなんとも不思議な組み合わせのこの2人だが一応目的は同じである。
クラウド、ヴィンセント、ユフィの3人で飛空艇ゲルニカの探索をしていたときの事である。
日ごろから鍛えているクラウドたちだが、防げないものは防げない。
その防げないものの中に状態異常というものが含まれている。
リボンはクラウドの強い意志によりティファが装備しているので他の仲間は状態異常になりやすかった。
その中でもヴィンセントとユフィは混乱してクラウドを中心とした仲間に攻撃する事がとても多かったので、クラウドがついにぶち切れたのである。
「混乱を防ぐアイテムを買って来い!」と。
そうして一時戦線を離脱したヴィンセントとユフィは混乱を防げるアクセサリを選んでいるわけだが。
この店に着いてから早30分。ユフィはうなり声を上げながら品定めに夢中だった。
ヴィンセントは何でも良いのだが、ユフィはデザインが気に入らないのは嫌らしい。
ヴィンセントは控えめにユフィに声をかける。
「・・ユフィ」
「何!?」
すごい勢いで叫ばれたので耳が軋んだような音を立てているのをヴィンセントは感じた。
「・・もういいだろう?」
「ダメ、絶対ダメ!疲れたなら先に帰ってもいいよ!」
「・・・」
ユフィの勢いに気圧され、思わず黙り込む。
といってもヴィンセントが黙り込むのは珍しい事ではない、むしろ日常茶飯事だ。
ユフィがこのように一つの事にものすごく熱心になるのは珍しい事だ、とヴィンセントは考えた。
もしかしたらこの少女は目的とは自分のほしいものを選んでいるのではないだろうな・・?
そんなヴィンセントの考えに勘付いたようにユフィはくるりとヴィンセントのほうを向いた。
「・・アタシ、まだ自分の分は選んでないからな!」
ヴィンセントはユフィの傍を離れ、指輪が陳列されている棚の方へ歩いていった。
さまざまな装飾の施された光り輝く輪の中で、ヴィンセントの目をひく指輪があった。
飾りっ気の無い、シンプルなシルバーリング。
安らぎを与える銀色が照明の光を反射し、他の指輪とは違う輝き方をする。
ヴィンセントは、その指輪を持って店員に声をかけた。
ユフィはヴィンセントが自分の傍に居ない事に気づき、咄嗟に店内に視線を動かす。
そこで、店員が何かを持っているのに気がついた。
「・・指輪?」
きらきらと銀色の輝きを放つ輪にユフィは驚き、その店員に声をかける。
「すいませーん」
店員はいらっしゃいませ、と笑みを浮かべユフィの言葉を待った。
「その指輪、混乱とか防げちゃったりしますか?」
「はい、防げます」
「それ欲しいです!」
店員の手の中の銀の輪を指差すユフィの言葉に店員は営業用の薄い笑みを浮かべて口を開く。
「こちらの商品はすでに予約されていますので、こちらの棚から同じ商品をお選びください」
ユフィは頷き、同じシンプルなデザインの指輪を手に取った。
「・・・終わったか?」
会計を済ませたユフィに低い、心地よい声がかかる。
「うん、ヴィンの分は選んだよー・・って自分の分買うの忘れた!」
そこまで熱心に選んでくれたのか、とヴィンセントは驚きを隠せなかった。
そしてあちゃー、と慌てるユフィの手を軽く引き、ヴィンセントは店の外に連れ出した。
頭の上に疑問符を浮かべるユフィにヴィンセントは無表情に呟く。
「右手を」
右ぃ?とユフィが恐る恐る右手を差し出す。
ヴィンセントは白い薬指に、購入した指輪を嵌める。
きらりと銀の光を放つそれはユフィの指にちょうどはまった。
「え、うそ、マジ?」
「ああ」
傾き始めた日にユフィは己の掌をかざして小さく笑い出した。
途端に少し不安になったヴィンセントがどうかしたか、と尋ねればユフィは幸せそうな笑顔で叫んだ。
「ヴィン、あんたも右手出して!」
ユフィの手がヴィンセントの右手と重なり、同じデザインの指輪が薬指に嵌められた。
「アタシたち、同じ指輪選んでたんだよ」
これってちょっと結婚式みたい?とおどけるユフィにヴィンセントは小さく笑みを零す。
「予行練習だな」
ヴィンセントの言葉にユフィは笑い、左手は開けておいてあげるよ、と手をつないだ。
そして照れ隠しに、小さく、ありがとうとつぶやいた。