目が覚めた。

仲間たちが眠るテントをそっと抜け出し、昨日のうちに見つけておいた小川に向かって歩き出す。

右手の中には前にシドから貰った煙草の箱と無断で借りたマッチ箱。

静けさに包まれた小川のほとりに座り込み、一本火を点ける。

ゆらゆらと揺れる煙、口の中に広がる煙の味。

それらは音を持たず、それぞれが静寂を保っている。

最後に吸ったのは何時だっただろうか、それすら思い出せないほど時が経ってしまったのか。




「ヴィンセンとー?」

眠たげな少女の間の抜けた声が静寂を破る。

煙を吐き出しながら振り返れば眼を見開くユフィ。

「アンタ、煙草吸うんだね」

「・・たまに、だ」

ユフィは驚いたように固まっていたがすぐに私の隣に腰を下ろし、水を飲み始めた。

「・・余り飲むと目が冴えるんじゃないのか?」

仮に眠れなくなって次の日の戦闘に響いたら困る、そう思い声をかけたのだが。

「だいじょーぶ、それに眠れなくなったらアンタと話でもするよ」

どうやら汲み取ってもらえなかったようだ。

だが私も多少退屈を感じていたところだった。

ユフィのとの会話に興じるのもいいだろう。



「何で今日は吸ってるの?」

「眠れないから・・かもしれん」

「煙草ってさ、におうじゃん?」

そういえば煙草にも臭いがあったな、煙の臭い。

だが臭いがつくことを気にしていては私の武器は扱えない。

もう一本の煙草に火をつけ、今まで吸っていた煙草は足で踏んだ。

「元々私には元々硝煙の臭いがするだろう?」

ユフィは大きく眼を見開き、そうだったと口の形で呟いた。

何か深く考え込んでいたかと思ったらいきなり私の胸のあたりに顔を近づけてきた。

何をしているのか聞けば回答は想像を超えた。

「ヴィンセントの匂いを覚えようと思って」

「お前は犬か」

「馬鹿にしないでよね」

馬鹿にはしていない。だが誰だってこの行動は不審に思うとおもうのだが・・・。

胸の辺りに体重がかけられた。

驚いたがユフィはやはり軽く、辛いとは思わなかった

。 「ヴィンセント、煙草吸わないでよ」

何を急に言い出すのだ、お前は。

「だってさ、健康にも悪いし?ヴィンセントの匂いが煙草のにおいと混ざってよくわかんない」

どうやら目の前の少女は私の健康を気遣ってくれたらしい。

お前は何時も不健康そうだというが私はいたって健康だ。

それに私の匂いをおぼえて何の得になるというのだろうか。

それを聞きたくなったがユフィの目が眠気を訴えていたので、質問するのをやめた。

「うーねむいー」

ユフィは本当に眠たげに私に声をかけた。

「なら戻って寝る事だな」

「めんどくさい・・」

面倒だと?お前が仮にここで眠ってしまった場合私は女性たちのテントにお前を運ばなければならない。

そんなことをすれば明日何を言われるかわからない。

「おやすみー・・」

「寝るな・・!」

しかし既に夢の世界の住人のユフィにその言葉が届いた様子もなく。

仕方なくため息をつき、ユフィの頭を撫でた。

・・・お休み、我が侭忍者娘。