悪夢癖、とでも言うのだろうか。
眠るたびに悪夢に自らの体を蝕まれ、苦しみの余り叫ぶ。
それが永遠に繰り返され、仲間に迷惑をかける。
ならば、眠らなければいいとも考えたことがあったがそれでは3日ほどしか身体が持たない。
そうして眠りにつけば疲労によりますます酷い夢を見る。
しかしこれさえも自分の罪と受け入れる事ができた。それは私だけのようだったが。
朝。
結局眠れない夜を過ごした私が部屋に戻ると其処には誰もいない。
といっても服などが乱雑においてあるところから朝食でも食べに行ったのだろう。
そう思えば身体が空腹を訴える。
そこでティファたちがいるだろう食堂へ向かえば私以外の仲間たちが全員、額を寄せ合うようにして何かを議論していた。
小さく聞き取れる声は「薬は?」「それ、許されるのか?」などと断片的に聞けば犯罪的に響く単語。
「・・・お早う」
「・・!? ヴィンセント!!」
クラウドが随分と過激な反応をしながら私の名前を呼んだ。しかしそれは他の仲間も似たような反応だった。
・・・何だ?私に聞かれてはまずい内容の話だったのか・・?
「聞いてた?」
エアリスが首を傾げるような格好で私を見上げる。
「・・断片的には聞き取れたな」
正直に話せば少し青ざめる仲間たち。・・・何の話をしていたんだ?
「席を外そう・・すまなかった」
結局部屋に戻り、寝台の端に座る。
薬、許されるのか。この2つの単語が導き出す議論の内容は?
脳を回転させ、悩んではみるもののこの2つの単語で分かる人間が居たら是非一度会いたい。
結局分からずに右手を額に当てる。
そこで自分が寂しさを感じている事に気がついた。
其処まで気になるなら面と向かって何を話しているか聞けばよいだろう、と冷静な自分が考える。
その危険を冒さないのは自分がどこかで、この繋がりを断ち切られることを危惧しているから・・?
「・・・私は、変わったのか?」
ぽつりと呟いた瞬間、あの忍者娘の叫び声が聞こえた。
「だから添い寝しかないって!!」
・・・添い寝?
眠れない子供をあやすときに親が隣で眠るあれか?
一体何の話をしているんだ・・。
思わず、足は部屋を出て声が聞こえるぎりぎりのところで止まった。
「男なんかに隣で眠られても気持ち悪いぜ」
「じゃあ私たちが寝るの?それはちょっと・・」
「添い寝は却下だ」
シド、ティファ、クラウドの声がそれぞれ深刻な響きを持って響く。
「あーもう!一回休憩!ヴィンセントだって怪しんでるよ!」
ユフィの声で仲間たちは我に返ったようにそれぞれ散り始めた。
私はその場をそっと後にし、もう一度議論の内容を推理し始める、がやはり分かる事は無かった。
その夜、同室のクラウドとナナキは眠りについたが私は眠くならなかったので、月明かりのもれる窓辺で本を読んでいた。
こうすれば悪夢に苛まれることも無い。
薄暗い月明かりで本を読んでいたせいか、目が痛みを訴える。
思わず窓辺の方を向けば、そこにあるはずの無い人影が窓枠に立っている。
目が合い、その人影はこちらに手をふった。
「・・・何をしている?」
窓を開け、人影の正体の少女を部屋に招きいれた。
「うう、ちょっと外寒い・・」
「・・散歩でもしていたのか?」
「何でそうなるのさ。アタシはね・・」
ユフィは不敵な笑みを浮かべ、私の寝台に横になった。
「添い寝?」
「・・・・」
幾らなんでも不味いだろう。色々とこのパターンは。
同じ部屋の中ではクラウドもナナキもいるのだ。
「大丈夫じゃない?さ、ほら早く!」
私の心を読んだかのようにあっけらかんと笑いながら少女は手を招く。
しかしそれでも行動に移さない、あっけにとられている私の手首を掴み、私はいとも簡単に少女の隣に寝転ぶ格好になった。
「どういうつもりだ、ユフィ・・!」
「・・・たまにはゆっくり寝ればいいよ。
悪夢とか、何かあっても、朝が来るまでは隣にいるから」
そう言い切るとユフィは瞳を閉じた。
その言葉に、驚きに似た喜びが身体中を支配する。思わず身体が強張り、しかしそれはすぐに取れた。
傍に感じるぬくもりが、安心感を与えてくれた。
「・・・・有難う」
指先でユフィの唇に触れながら、呟いた。
すぐに規則正しい寝息を立て始めた少女にその言葉は届く事が無いだろうが。
私はその音に眠気を誘われ、意識を手放した。
「おはよーヴィン。アタシ帰るね」
朝日が差し込む少し前、ユフィは私に笑いかけ、行きと同じように窓から出て行こうとした。
その細い手首を掴み、こちら側に引き寄せた。
「ちょ!なにするのさ!」
「・・散歩でもいかないか」
ユフィは抵抗するのを止め、私に向き直る。
「・・・じゃあ屋根の上がいい」
赤い屋根の上に2人揃って座るこの光景は傍から見れば滑稽だろう。
ユフィは小さく欠伸を噛み殺し、大きく1つ伸びをした。
「・・昨日の議論の内容は一体なんだったんだ?」
遂に尋ねてみる。自分の無謀な勇気をどこかで称える自分がいるのを感じた。
「え?・・あぁ、あれはね、ヴィンセントをいかに安眠させるかって悩んでみたんだよ」
・・私の安眠?
随分拍子抜けする答えに私は思わず鸚鵡返しに尋ねた。
「うん、そしたらエアリスが睡眠薬だとか物騒なこと言うからさ?
アタシが添い寝〜って言ったんだ」
よく眠れた?と尋ねてくるユフィの頭を少し乱暴に撫でる。
「痛いっ!なんだよ!」
少々あらゆる方向に跳ねた黒髪は明るい光を持ち、昇ってきた朝の日を反射する。
「・・・よく眠れた。有難う、ユフィ」
ユフィは驚いたように眼を見開き、私に背を向け、そうして今度は笑顔を浮かべながら私のほうを向いた。
「また眠れなくなったら一緒に寝てあげる」
じゃあもう戻る?とユフィは屋根からするすると下りていった。
遠めでも分かる、赤く染まった頬を見ると少し笑えて来た。
私は多少お節介だが、親身になって接してくれる仲間に、そしてそれを行動に移してくれる少女に、もう一度言おう。
有難う。
食堂に行ってみると真剣な面持ちのティファとエアリスが片手に水の入ったグラス、もう片方に錠剤を持って立っていた。
・・・行動に移せるのはユフィだけではないようだ。
「あ、ヴィンセント」
「おはよう」
「・・お早う」
ティファはグラスを机の上に置き、私の向かい側に座った。
「昨日は良く眠れた?」
「・・ああ、これからも眠れるだろう」
2人は驚いたように顔を見合わせ、その後微笑んで私に言った。
「良かったね」
すまないヴィンセント。俺は気づいていたんだ・・。
2人は詮索好きだからきっと俺、何があったか話してしまうと思う。
というか何で俺が後悔の念に・・・!?